田村義也の装丁

すこし前に大岡昇平の「昭和末」(ISBN:4000026720)を買った。あちこちに書かれた晩年の雜文を集めたもの。「成城だより」のような密度はここにはなく、それでも相変わらずスタンダール中原中也について書きとどめる意志の強さは残っている。それもいい。収められた文章のなかでは、中村光夫への追悼文もいい。つき合いの深かった小説家や批評家のほとんどが亡くなってしまったなかで残された者が淡々と書き連ねた言葉たち、そして大岡さん自身もすでにこの世にいなくなってから大分時間が過ぎた。
読み終えて本棚にしまおうとしたとき、ふと近くにあった山田風太郎の「半身棺桶」の背表紙が目に入った。同じ装丁家が手がけたものだろう。あまり意識をしたことはなかったけれど、この作風の装丁はずいぶん目にしてきたはずだ(安岡章太郎の本など)。装丁家の名前は田村義也。つらつら眺めてみてもまったく飽きることのない描き文字の美しさに、なぜ今まで気づかなかったんだろう? 調べてみると、一昨年に亡くなっている。なんともいえず残念な気持ち。著作も品切のままのようだけど、田村義也追悼集というものが出ているようなので、まだ入手可能か問い合わせてみようかな。

のの字ものがたり

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