ひとつの町のかたち

前日の日記に書いた「ひとつの町のかたち」が、随分おもしろい(まだ途中だけど)。ジュリアン・グラックが高等学校の寄宿舎生活を送ったナントの町についての文章なんだけど、遠い記憶と今ここにある思考が区別のできないくらいに入り混じって、ひとつの町とじぶんとの切り離せない親密さを核とした物語と風景が静かに流れていく。
町について書かれた物語というジャンルってだけでしんぼうたまらん上に、単なる追憶にとどまらないとこがいい。たとえばヴァルター・ベンヤミンの「ベルリンの幼年時代」も美しい本だけれど、ベルリンという空間が閉じすぎているという印象があって、それは過去をすでに遠いものとしているせいで追憶がやや甘いものに傾いているように感じられるからだろう。どちらかといえば、グラックさんの語り口は谷崎潤一郎の「吉野葛」に近いものを感じる。もっと奔放なの。でも優しくて上手やねん……(何が)。


吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)