読んだことのない本
デイヴィッド・ロッジの「交換教授」のなかで、英文学の教授たちがじつは読んでない本を晒していくゲーム(Humiliations)に熱中して、とうとう「ハムレット」を読んでないと告白した教授が失職してしまうというエピソードがある。僕は研究者でもなんでもなく、たんに小説を読むのが好きだから読んでいるだけの人間だけれど、このエピソードには同情する部分があるというか、僕自身これまでの生涯において読んだことない本を読んだふりするなんて何度もしてきたわけです。
もちろん、おもに思春期においては何事にも背伸びというのは重要であって、読んだことあるふりをしつつ帰りに書店で買ってあせって読んでみるのも成長のだいじな過程である。あとでちゃんと読めばもんだいない。そうではなく、読んだふりをしておいて読もうともしないというのは一体なんだ。どういう了見だ。
そんなふうに問いただされれば、僕も深く頭をたれるしかない。だけど盗人にも三分の理。ちょっと待ってくれよ、世の中には読んでなくても語れてしまう語りかたっていうものがあるんだよ。そもそも「読む」っていうのはいったいどういうことを指していってるのさ。ページを最初から最後まで開いて、印刷されている文字に目を通せば「読んだことがある」ってことになるのかい? そうだそうだ、そもそも個々の小説を「読んだことがある」「読んだことがない」に分けられるって考えるような、テクストの相互作用を無視する捉えかたこそ旧弊な小説の見方でしかないんじゃないか!
とかいっても、じっさいのとこ読んでないものは読んでないわけですけど。いろいろ頭に浮かべてみたところ、僕にとってmost humiliatingなのは「白鯨」か「百年の孤独」あたりかなあ。ガハハ、読んでませんとも! いろんなひとの、じつは読んでない告白を聞いてみたいなあ。
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