どうでもよく鋭いひとこと

最近のじぶんの日記を読み返してみたら妻の出現頻度がたいへん高く、ふたり暮らしなのでしょうがないとはいえ、お前はどれだけ妻が好きなんだってかんじですが、性懲りもなく本日も妻とのお話です。
もともと、家庭内でそれぞれが感銘を受けた映画や音楽や本についての話をすることはあまり多くない(悪口はときどき喋って盛り上がる)。妻は僕よりずっとたくさん映画を観る人なんだけど、どんな映画を観たのか、どんな感想を持ったかということについては、妻のはてなダイアリーを読むのが主な方法という。なんだそのバーチャル夫婦。しかし現実世界においては、近所に新しくできるカフェのことや、家計や住宅ローンや確定拠出年金や、今年も温泉行きたいねとか、ライフは靱店より西大橋店に限るよとか、飲酒運転のニュースだとか、そしてもちろん来たるべき出産関連のこととか、ほかに話すべきことはたくさんあるわけで、世の中の夫婦というものは多かれ少なかれそういうものなんじゃないのかなーと思っているのですが。そうでもないのかな。
そういえば会社の元上司(40代・特撮好き)は、この前の映画の日に夫婦で映画を観ようということになって、「涙そうそう」が観たい奥さんを無理やり「スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ」に連れて行ったそうです。奥さん超かわいそう。ここまでひどいケースは多くないかもしれないけど、やはりそういう趣味趣向に関しては、合わせる/合わさせる、あるいは教える/教えられるという関係性が持ち込まれやすく、それは夫婦という組み合わせにとってとてもメンドクサイものである。てきとうにつかず離れずで、ときどき相手の言うことに、(このひと鋭いこというなあ……)とたじろぎつつ感心してればよいのではなかろうか。
ここでいう「鋭いこと」というのは、現代に対する適切な問題意識から導きだされる映像に関する思慮深い洞察などではなく、たとえばぽつりと漏らされる「浅野忠信って岸部一徳系だよねー」なんていうどうでもいいひとことだったりする。最近は妻が夜の10時台には寝てしまうことが多いので、そのあと2時間ほどひとりで過ごす時間ができてしまっていて、それでなにをするかというと妻が録画した映画を観る機会が増えてきたわけです。そいでこの前、市川崑の「細雪」をぼんやり観ていて、この映画では岸部一徳がカメラマンの板倉役を演じているんだけど、これでピーンときたね。妻め、あのひとことはこの映画を観て思いついたなと。あれはもはや板倉ではなく、岸部一徳浅野忠信役を演じているのかと錯覚するくらいだったもの。嬉しくなって妻にこのことを話すと、「いやー? それじゃないよ」と軽く否定された。あれ? 一徳と忠信には、まだ僕の気づかぬ相似が隠されているらしい。だれかわかる人いたら教えてください。