トリック・フィルム@YouTube

今年初めにエリック・バーナウの「魔術師と映画」(ありな書房)を買ってから、文中で言及されているようなトリック・フィルムをYouTubeで探してみたことがあったんだけど、まだそのころはメリエスの「月世界旅行」くらいしか見当たりませんでした。今回ふたたび探してみたところ、いくつか見つかるようになっています。ただやっぱりアップロードされているものは限られていて、入手が容易なソフトに収録されているものが中心って感じみたいです。
YouTube
エミール・レイノーの「脱衣所のまわりで」。製作年代はかなり早く(1895?)、写真を背景にした絵のコマ撮りはきちんとした動きを見せてはいるけれども、これがトリック・フィルムやアニメーションという文脈で無視されがちなのは、メタモルフォーゼに代表されるような現実にありえない動きがなく、日常の人物の動作を見せているだけだからなんだろうな。
YouTube
George Melies - The Conjuror 1899 - YouTube
YouTube
YouTube
YouTube
YouTube
YouTube
Georges Meliés- Le Locataire Diabolique - YouTube
ジョルジュ・メリエスの作品たち。製作年代の早い「The Conjuror」は、マジックをそのまま映画のトリックでやっちゃったてな映像。19世紀末当時、人気を失いつつあったマジック劇場はトリック・フィルムの上映場所として息を吹き返したけれど、映画の主流がもっとシリアスな長篇へと移行するにしたがって、マジックは完全に息の根を止められました。メリエス自身も破産を経て、モンパルナスの駅の売店で玩具やキャンディを売る晩年を過ごしていて、「魔術師と映画」にはその情景の写真が一葉掲載されています。
YouTube
「イギリス映画の父」と呼ばれるロバート・W・ポールがマジシャンのウォルター・R・ブースと共同で製作した作品。走る自動車は宇宙空間へ飛び出し、太陽や土星のまわりを巡って地球へ戻る。Who's Who of Victorian Cinemaによるとブースはほかにアニメーション色の強い作品も製作していて、次に紹介するスチュアート・ブラックトンの作品から影響を受けていたようです。
The Enchanted Drawing - YouTube
YouTube
スチュアート・ブラックトンの作品。前者はドローイングと人物による動作を組み合わせたマジック色の残るものであるのに対して、後者は描いたり消したりする人物の手は現れるものの、ほぼドローイングの変化のみで構成されていて、一般的にアニメーション・フィルムの始祖と目される作品です。
YouTube
YouTube
YouTube
エミール・コールの作品。年代的にはブラックトンの作品がすこしだけ先行したけれど、エミール・コールの「ファンタスマゴリー」が真の意味でのアニメーションのはじまりだと考える人々がいるのもあながち間違いではないと思います。「ファンタスマゴリー」は、滑稽さやカリカチュアを重視したブラックトンの作品には見られない詩情をフィルムに持ち込んだからです。コールはもともと前衛芸術集団とかかわりを持っていて、彼のような人が映画の製作に乗り出したことも、魔術と映画の関係が薄れつつある時代の流れを映しています。
YouTube
セシル・ヘプワースによる、「不思議の国のアリス」の初めての映画化作品(1903)。コメントによると蛙の従士役でヘプワース本人が登場しているらしい。「魔術師と映画」によると、ヘプワースは同時期に〈身体損傷術〉(マジックの演し物として伝統的に好まれた、身体をバラバラにしたり戻したりするアレ)のおもしろさを自動車と結びつけた「自動車運転の喜び」「自動車を停止させる方法」などの作品を撮影しています。
Scarabée d'or, Le (1907) - YouTube
JAPANESE ACROBATS from 1907 - YouTube
YouTube
セグンド・デ・チョモンという人のことはまったく知らなくて(ていうか意味からするとチョモン2世?)、「EL HOTEL ELECTRICO」は荷物が自動で運ばれていったりというようなコールの「Mobilier Fidele」と似たネタのトリック・フィルム。「Japanese acrobats」に至っては欽ちゃんの仮装大賞か。観てのとおりまったく日本人ではないんだけど、こういうフィルムもあって、これはこれでどうも中国雑技団系に思えるのは気のせいか。とにかくJapanese acrobatsという見世物がこのころあったのは確かみたいですね。
Uncle Josh In a Spooky Hotel (1900) - YouTube
Uncle Josh's Nightmare (1900) - YouTube
Uncle Josh At The Moving Picture Show (1902) - YouTube
YouTube
「大列車強盗」を撮影したエドウィン・S・ポーターの「ジョシュおじさん」もの3本ほか。まあふつうのトリック・フィルム。
YouTube
Gertie the Dinosaur 1914 - YouTube
'The Centaurs' - Winsor McCay (1921) - YouTube
ウィンザー・“superb draftsman”・マッケイのアニメーション。この豪筆家によってドローイング・アニメーションは完成したといっていいでしょう。恐竜ガーティの愛らしさ。
Laugh Track - YouTube
制作者不明の映像。タグにはEdisonがあるのでエジソン社のものなのかな? laughing record(song)と呼ばれるジャンルの映像版だと思われます。ほとんどは実写で、途中にドローイング・アニメーションが入る。ただし、1907年製作ということを考えると、アニメーションの部分は後付けで編集されたもののような気も。
とりあえずこんなとこで。ビリー・ビッツァーやギド・ゼーバーのフィルムも観られるようになると大変うれしいのですが。でも録画方式やリージョンコードを乗り越えて海外に映像ソフトを注文するほどの熱意には欠ける僕のようなライトな鑑賞者にとっては、ネットでこんな作品たちを観られるようになっているのはありがたい話です。