ハンス・フィッシャーケーゼン

このまえのトリック・フィルムみたいに、YouTubeで見られる1920〜1930年代あたりの実験映像やアニメーションをまとめておこうかなあと思って、見たことあるやつを確認したり、新しいやつを探したりしています。したらいつのまにかオスカー・フィッシンガーの作品が消されているのでした。映像にかかわる著作権の有効期間って公開後70年だったんじゃないのかな? Studieシリーズなんかはもう切れてるものだとばっかし思ってたんだけど。
それはともかく、なんか量は結構あるわりにいまひとつおもしろいのが引っかかってこないなあ(ハンス・リヒターなんてこんなにいらないよ!)と思っていると、ど・ど・どぎもを抜かれたアニメーションに遭遇したのでこれだけ先に紹介しておきます。
ハンス・フィッシャーケーゼン(Hans Fischerkoesen)という名前について、僕はまったく記憶にないんだけど、googleで日本語ページを検索してもここくらいしか見当たらないので、あまり知られているとはいえないように思う。ハンス・フィッシャーケーゼンは第一次大戦の後、数本のアニメーション・フィルムを作成したのちに1920年代に入ってからライプチヒにスタジオを設立して、1940年代初頭まで広告を中心に数多くのアニメーションを作成した人物のようです。そのころの作品が以下のもの。
Cigarette Advert, "Schall und Rauch", Fischerkoesen (1933) - YouTube
ゆらゆら揺れるタバコの煙が踊り子の形をとってふわふわ踊りはじめます。
Philips Advert, Fischerkoesen (1937) - YouTube
これ絶対に見るべき! 夜明けの時間になっても太陽が起きてこない。困った星たちがどこかに電話をすると朝がやってきたけれども、その光の源は……。朝の光のなかの昆虫たちの動きもスゴいいです。細かくいえば絵柄の不統一感や外部からの影響(特に同時代のアメリカのアニメ)の未消化な部分はあるけれど、それらをマイナスしてもこんな広告アニメーションが1937年に作られていたとはなあ。この作品かどうかはしらないけど、1937年にオランダの広告フィルムコンテストでジョージ・パルやアレクサンダー・アレクセイエフをおさえてフィッシャーケーゼンが1位、2位を獲得したというのもむべなるかな、です。
ナチ政権により第二次大戦に突入後、1941年に宣伝相のゲッペルスの命令でフィッシャーケーゼンはポツダムにスタジオを移します。そして1942年に製作したのが「Weather-Beaten Melody」なのですが、経緯からすると不思議なほどにプロパガンダ臭とは無縁の作品になりました。
Weather-Beaten Melody, Fischerkoesen (1942) - YouTube
ただただびっくりどぎもを抜かれたというのはこの作品のことですよ。いやたしかにすでにアメリカには「シリー・シンフォニー」も「ファンタジア」もあった。それらのディズニー作品に比べたら、オリジナリティという面で及ばないかもしれないことは認めよう。でも冒頭の草むらからミツバチの飛行にいたるまでのシークエンスにおけるマルチプレーン・カメラの使い方なんて、それらの作品を超えるレベルに成熟してるんじゃないかと思う。浮遊感だってたいしたもんだ。それにミツバチがじぶんの針でレコードを鳴らしたり、負けじとハリネズミが草の蔓にぶら下がって……これ以上は見てのお楽しみだけど、ちいさな生き物たちの特徴を生かしたアイデアにあふれた展開、めりはりのついた効果音と音楽、この世にはまだまだじぶんの知らない素敵なアニメがあるんだなあとうれしくなりました。YouTubeさんありがとう!
参考リンク:The Case of Hans Fischerkoesen