雨の京都の木曜日

仕事で京都。それではどちらにお伺いいたしましょうか……と電話の向こうの相手にご相談申し上げると、出町柳の柳月堂というオツな指定がなされたので、午後からぶらり京阪電車の旅。
いつのまにか電車のなかで寝てしまったらしく、でまちやなぎーでまちやなぎーというアナウンスで慌てて飛び起きて電車を降りる。地上に出るとしとしとと雨が降っていて、待ち合せの時間まではもうすこしあるけど、早々に柳月堂に入って談話室で相手を待つことにした。臙脂色のフレームの眼鏡がよく似合ういかにも京都の大学生ってかんじの女の子にコーヒーを頼んで、カバンの中を探ると、さっき電車で読んでたはずの「安吾新日本地理」(角川文庫版)がない。ないない。どうやら慌てて降りたときに置いてきてしまったらしいじゃないですか。もう何度か読んだものだからべつにいいけど、たぶん買ったのは東京在住時代で、その後いくたびかの引越しも乗り越えて大阪までやってきたのに……。本ていうのはこんな風に呆気なくどこかへ行ってしまう。死なず、ただ消え去るのみ。
打ち合せを終えて外へ出ると、まだ雨は降り続いている。百万遍あたりの古本屋でも覗こうかと思っていたけれど、まだ会社に仕事も残っていることだし、妻への土産としてFRIANDISEでという店でパンを買って京都を後にしたのでした。