「ハルチン」の時代

夜の歯みがきにはわりと時間をかける。本棚の前に移動して、古書市の目録や、さっと読めるマンガなんかを片手にゆるゆるとみがくのです。それでふと目にとまったのが魚喃キリコさんの「ハルチン」だったんだけど、1995年から1998年までHanakoに連載されて同年に刊行された単行本の帯の文句は「ハルチン(推定25才)の気ままな生活」だったりする。ふはー。なんか時代を感じますね。これが現在、「ハルチン(推定33才)の絶望工場生活」だったり「ハルチン(推定33才)の心療内科通院生活」になってたらちょっと切ないなあ。
僕もいい歳になってしまったせいか、いつのまにか身の回りにフリーターという存在がいなくなってしまったようです。なので、現在のフリーターや派遣社員を取り囲むきびしい状況というのがどれぐらい信憑性があるものなのか、すこし判断材料に欠けるところがある。正直いうと、いまでも、たいして将来の不安なんか感じずに、のんびりと気ままな生活を送っているフリーターっていうのもいるんじゃないのかなーとも考えています。希望的観測として。たしかに、特にネット上で交わされるフリーターに関する悲惨な状況などを読むと、僕の想像を超えて労働市場・雇用システムは暴力的になっているようにも思えるんだけど、なんかその正論しかいえないような雰囲気がちょっと苦手というか。しかし外野がわいわいゆっても、実情も知らんのにすっこんでやがれと片づけられてしまうので、現在フリーターで気ままな生活を送っている人がもしいたら、もうちょっとラウドに声を出してくれるとうれしい。そして外野としてさらにテキトーこかせてもらうと、こんだけフリーター株が暴落した現在、意志的にあえてフリーターになってみるという選択をする人がいたら、それってなかなかのセンスじゃないかなーと思う。まあ裏張りなので、損するときは大概じゃなくなりますが。
僕自身も、ちょうどハルチンとおなじ90年代の後半ををフリーターとして過ごしました。あれをもういっぺんやってみるかと訊かれたら微妙なところだけど、でも、「気ままな生活」で楽しかったことはたしかです。学校を卒業して会社勤めをはじめる前に、あるいは会社を辞めてちょっとのんびり暮らしたいときに、フリーターっていう道を選んでしまうとそれは袋小路であるっていう状況は、ちょっと息苦しい世界だなあと思う。

ハルチン (Mag comics)

ハルチン (Mag comics)