金曜日の夜は更けて

大変かわいらしいテーマにしてみたのですが、ここは36歳のおじさんが綴るダイアリーです。まちがえた人には申し訳ない。
さて、先日妻が「私は赤ちゃん」という本を買ってきました。著者は、「おやじ対こども」「私は女性にしか期待しない」などの抜群のセンスタイトルで知られる松田道雄。僕が20代の一時期に名乗っていた“恋愛なんかやめておけ主義者”も、もちろん松田さんの本のタイトルから借用していたもので、僕にとっては畏敬すべき人物のひとりです。「私は赤ちゃん」は新聞連載をもとに岩波新書として1960年に刊行され、現在72刷をかぞえるロングセラーで、赤ちゃんの視点で書かれた日々のあれこれという、一見すごくありがちな内容なのですが、あにはからんや、これがほんとうに容赦なくミもフタもなく素敵なので紹介します。

ママは、私が生まれてから一そう、そういうまじめな話をきくようになったらしい。母性の自覚というのかな。この調子でいくと、うちでは、パパよりもママのほうがえらくなってしまうにちがいない。パパときたら、夕方かえってくると、だらしなくねそべってしまう。ラジオも軽音楽か、落語、漫才、お笑い番組などしか聞かない。求婚時代にはママに第九シンフォニーのLPをプレゼントしたりしたのに、何ということだろう。本箱の文学全集だってパパでなしにママが読んでいる。パパが読む活字というのは新聞と週刊誌だけだ。会社で手あらく使役される結果の疲労ということになるとおいたわしい限りだ。

なんとも冷酷な赤ちゃんである。しかも一人称が“私”って……いったい松田さんがなにを思ってこの本を書いたのかは謎で、そういう暴走かげんをおもしろがるのはこれまでと変わらないんだけど、本筋である育児についてふんふんと楽しく読めてしまうじぶんにもなかなかびっくりした。あたりまえの話だけど、本を読むにも時機というのは重要で、季節が変わったら赤ちゃんがうちにやってくるというタイミングで、この本を読めたのはラッキーだったと思います。ひとつぶで二度おいしい。そうそう、いわさきちひろの挿絵もすげえかわいいので三度おいしいですよ。

私は赤ちゃん (岩波新書)

私は赤ちゃん (岩波新書)