ドライブで桜と屏風を見た日曜日

最近、ベランダに置いている植木のあたりで、すずめとひよどりの悪さが激しい。すずめは鉢のなかで砂浴びをしてそこらじゅうに砂を撒き散らすし、ひよどりは金柑の実を食べつくしてしまった。しょうがないなあと片づけをしていると、この数日であっという間にモミジの若葉が生えてきているのに気づく。生まれたばかりのこどもの手のひらって、このくらいの大きさかなあ?。
天気予報では昨日から雨が降り続くはずだったけど、目を覚ましたらすっかりあがっていたので、急に出かけてみる気分になった。妻が実家に帰ってからはほとんど車を動かしていなかったので、たまにはひとりでドライブもいいかなーと。
中央大通りから第二阪奈道路を抜けて、昼前には奈良市のあやめ池近くの彦衛門というそば屋に到着。食べたのは、菜の花と竹の子の季節そばと、桜えびとわらびの炊き込みご飯。そばは好きだけど、ざるかもりしか食べないというようなストイックなそば好きではなく、こういうかけ系も大好きなんである。出汁もそばもとてもおいしい。非常にわかりにくい場所にあるのに(うちのなび子もずいぶん遠くで案内を終了しやがった)繁盛しているようすで、満足しつつ混み合ってきた店を出た。
そこからほど遠くない大和分華館が今日の目的地。駐車場に車を停めて、桃や桜の花が咲く坂道を登っていくと、なまこ壁のような外壁を持つ展示館が見えてくる。そして展示館の向かいでは、枝垂桜がちょうど満開を迎えていた。この枝垂桜は、天然記念物に指定され、日本三桜のひとつにも数えられる福島県の三春滝桜の種子から育てた樹だという。樹齢1000年を超えるというこの親桜には比べるべくもないかもしれないけれど、メジロを何羽も枝に遊ばせ、その重みで音もなく散る花が地面にうっすらと桜色に敷きつめられるようすには、すでに十分な風格がある。この桜を見られただけでも、ここにきてよかった。
館内に入って、今日が初日の「松浦屏風と桃山・江戸の美術―遊楽と彩宴―」と題した展示なんだけど、これがまたまいっちゃったんだな。唐津焼の褐釉桐文香合や、乾山の銹絵染付笹文向付とか、陶器のいいものだってあったんだけど、もう、もう、ひたすら松浦屏風にノックアウトされた。18人の遊女を、華麗な衣装と、カルタやキセルなどのエキゾチックな小物とともに描いたこの屏風は、江戸初期における風俗画の名品とされている。ただ、僕がこの絵に感じたのは風俗画という呼称からはまったく遠い緊張感のかたまりで、それだけを取り出すなら題材とは別に、宗教画といってもいいくらいの静謐さである。なんでこんなものが描けたのか……。完全に理解を超えているけれども、どうにも惹きつけられざるをえない力にあふれている。
まいったなと展示館の外に出て、さっきあれほど感激した枝垂桜がひとまわり小さく見えるのにおどろいた。すこし風が吹きはじめていて、散る花の美しさが増すことはあっても、それを損なう要素はなにもないはずなのに。高さ五尺、左右二間に満たない松浦屏風が、10メートル以上の高さから枝を広げる桜の存在感を小さくさせてしまう力を持っているということだろうか。とんだ異種格闘技を目の当たりにして、もっと、もっと、とつぶやきながら大和分華館をあとにしたのでした。