あんな飛び道具は禁止すべきである

「おっぱいにはほんとうにかなわないよね……」などと語らいつつ、これまでその手につかんできたおっぱい、まだ見ぬおっぱいを思い浮かべながら、居酒屋で杯をかたむける諸君。おっぱいは、きみたちにはまだその真の実力のかけらも見せていないのだということを、僕はここで強く主張しておきたい。
昨晩、おっぱいは娘を寝かしつけた後、「しんどいから先に寝るわ……」とめずらしく別の部屋でおやすみになられた。異変はその1時間後に起きる。娘が目を覚まして泣きはじめたのだが、ちょっといつもと様子がちがう。抱っこしてあやしてみたものの、激しい泣き声は高まるばかり。どこか痛いのだろうか。焦りはじめた僕の左手に置かれた娘のおしりから、ぶぅとおならが漏れた。あ、うんこがしたいのね……。便秘がちな娘は、しばしばうんこに苦痛を伴うようなのである。すこし安心した僕は、うんこ競争、いち、にー、さーん、○○のうーんこーはーいーっとうしょーうとでたらめソングまで披露して娘のうんこをアシスト。ほどなくして、左手にほかほかした重量感が訪れ、まだぐすんぐすんと泣きじゃくる娘のおむつを替えているところに、おっぱいは現れた。
どうかしたのかね? いや、これこれしかじかでもうだいじょうぶだから。うるさくしてごめんね。ふーん、それはごくろうだったね。しかしまだ泣いてるみたいじゃないの。ちょっと咥えとこうかね!
そう云っておっぱいは、娘の口元にぐいと割り込んだ。いやあの……、もうだいじょうぶだと思うんですけど。それってちょっとイイトコドリっていうか、ずるいっていうか……。うんこに導いたのは僕なわけで……。
あーん? なにをぐずぐず云っとるのかね? ま、ここでやめてもいいんだけどさ、もうあと一息でこの子はすとんと眠るよ。すとんとね。すやすやすやすやと規則的になっていく娘の鼻息。もう僕には選択肢は残されておらず、押し黙ったままうなずくしかないのであった。
ひどいよねー。ひどい。あんな飛び道具を出されちゃあ、かなうわけがないじゃないか。きたるべき卒乳だか断乳だかの日には、どんな滑稽かつ怖い絵を描いてやろうか、おっぱいに対する陰湿なしかえしを思案中である。