コロッケ

娘の最近の好物は、海苔とチーズとコロッケである。なんとも脈絡のない組み合わせ。「のい」「ずーち」「こぉっけ」。このみっつを盛ったスペシャルプレートをこのまえ妻が用意したら、うおー、うおーと狂喜していました。
で、きょうの夕ごはんは鶏肉の香草焼きだったんですけど、ほら、パン粉のっけてオーブンで焼くようなやつ、帰宅してから妻に話を聞くに、その見かけのせいか「こぉっけ!」ってまちがえたらしいのです。「これはコロッケじゃないよー。鶏肉だよー」「こぉっけ!」「コロッケじゃないんだけど……」「こぉっけ!」。そんで口にしたら、うわーん騙しおってからにと泣いてぶちぎれたらしく、しまいに妻が根負けして、じぶんのお弁当用のコロッケの供出を余儀なくされたという。
コロッケにそこまで執着できるというのが、大人からすると驚異的である。道理をわきまえていないにもほどがある。なによりおかしいのは、あと15年もすれば、部屋にひとりとじこもってスミスを聴いたり、野溝七生子を読んだり、ストローブ=ユイレを観たりする暗めの少女に成長している可能性もじゅうぶんにあるということである。コロッケから「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」まで、たったの15年。
そんなとき、お父さんは部屋にコロッケを持っていってやるのだ。コロッケ食べない? こぉっけ? そんで、うっさいわけわからんこというなあほちゃう、とか冷たく云われてみたい。いまから楽しみです。