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交番にて

妻が公園で拾ったコインケースを代わりに交番に届けに行った。失礼ながら中身を見せてもらったら、十円硬貨と一円硬貨が数枚ずつ、それからギターピックが何枚か。ぼろぼろだけれどIL BISONTEだし、贈りものだとか、なんか記念の品だったらかわいそうだよねえ。売れないギタリストが恋人からピック入れに使ってねとプレゼントされたものの芽の出ない苛立ちから彼女と別れ、いまは何とか成功したけれど思い出すのは彼女のことばかり……。そうだ、彼女のつくってくれたお好み焼きはちょっと変わってたんです。ふーん、なるほどね。えっ、どういうこと山岡さん。にやり。ちょっとみんなにつきあってもらいたいところがあるんだ。後編に続く、みたいな。
たそがれどきの交番には、おっさんと若い警官のふたりが詰めていた。落し物を届けにきたんですけど。伝えるとおっさんのほうが、あ、ほなそこに掛けてくださいと云って拾得物届の準備をはじめた。えーと、中身確認させてもらいますよ。十円に、一円に、あー? これなんやの? ピックをつまんで若いのに尋ねると、ギターのピックちゃいますかねと答えた。ギターのピック? ご主人ご存じ? と僕のほうに向き直るので、ええ、ようするにギター弾くときの爪替わりにするもんですわと答える。あー、爪ね。ほな、ギター用のピックていうことでよろしいか? うーん、たぶん大きさ的にギター用やとは思うんやけど、単にピックでええんちゃいますかね。と答えたのがまずかったのだろうか、おっさん警官(西川きよし似)は目を見開いてつぶやいた。ギター用やない可能性もあるわけですか……。これぜったい話が長くなると危険を察知したので、あ、でもギター用でまず間違いないですと答えて、そのあとは、ジップ式のコインケースを“がまぐち”扱いされてもスルーすることにしましたとさ。
管轄署に連絡をとっているあいだ、交番のなかをじろじろ観察していたら、すてきな防犯防止ポスターがあった。夕暮れどきの町を歩く女の子の水彩画にそえられたコピーは、「引ったくりに気をつけよっ♪ カバンは車道の反対側に 大阪乙女のモダン・スタイル」。さすがは大阪府警。「覚せい剤打たずにホームラン打とう!」とか、ああいうベタなポスターを脱したい一派がつくったものかと推測するが、根はいっしょである。