そして誰もいなくなった

おひさしぶりです。

スティーブ・ジョブズが亡くなりましたけど、まあ今年はたくさんの人がいなくなるなと思う。7月の終わりに僕の母もミスター・ジョブズとおなじ病気で亡くなって、寝ずの晩をつとめた夜のタイムラインはミュージシャンとSF作家の死をいたむつぶやきで溢れていたのを思い出します。

会社で仕事をしているときに父から電話がかかってきて、戸惑うような声で、急に具合がわるくなったからこっちにきてくれないかと言われ、とりあえず自宅に戻って不在着信に折り返したときにはもう亡くなっていた。1時間もかからなかったなあ。呆けたきぶんのまま実家へ車で向かって、母のなきがらに対面してから父の話を聞いた。いや、ほんとに急なかんじにわるなってな、半時間前には友だちが買ってきてくれたたこ焼き食べてたんやけど……。そうか、たこ焼き食べてたんか……。文字に起こすと、家族の死をむかえた父子の会話にしてはどうも緊張感が足りない。しかしまあ、現実というのはそんなふうに泣けばいいのか笑えばいいのかよくわからない事態だったりするものです。つうかだいたい笑ってた。結局空き待ちが間に合わなかったけれど、ホスピスの入所申し込みのときも、友だちとランチに出かけたりすることはできるのか訊いたりしてたもんな、あの人。

父がやだやだと言うので喪主をつとめることになったのですが、僕もあれは、できることなら、二度としたくない。おーい、ハンバーガー買ってきてくれよ。え、どうしたの急に。喪主バーガー。というだじゃれを飛ばして妻に白い目で見られるくらい気楽に考えていたけれど、いざ挨拶をするときには声が裏返ってしかたがありません。やだなあ、いいおっさんが子どもみたい。でも子どもだからしょうがないじゃんねと、祭壇の写真に写った母を思い出して、そんなふうに夏の葬儀は終わり、いつのまにか秋が深まりました。