新しいめがね
ひさしぶりに眼鏡をつくった。前につくったのは白山眼鏡店がまだアメ村にあったころだから、10年ほどは昔のはなしになる。そもそもは今年に入ってから仕事で小さな字を読むのが見づらくなってきてしまったのであった。これはあれか、老眼というあれが、早くもわが身に降りかかってきてしまったのか。まあ、もう43歳だから早くもないかもしれないけれど、やはりいい気のするものではありません。しかしずいぶん眼も酷使してきたし、これからもまだお世話にならねばならんので、いっちょうシャレオツな老眼鏡でもつくるとしよう。なにごとにも買い物というソリューション・プロセスを好むかちょうさんは、まずは眼科に出向いたのでした。ここから思いがけず話は長くなります。
いろんな検査を大盛りでされたあげく、狭くうす暗い診療室で対面した医師は、病気の心配はなさそうなので、つまりは加齢によるナントカカントカで…と奥歯にものの挟まった言いかたをするわけです。いわゆる老眼ってことですよねと確認すると、まあ、そういうことですねと苦笑い。
しかし、眼科医の真骨頂はここからでした。老眼鏡をつくろうかと考えてるんですが…と話を持ちかけたところ、かちょうさん、老眼鏡というものはありません、と仰るのである。はあ。私たちはナントカガンキョウ(聞き取れず)と呼ぶことが多いです。これは、どのような作業をするときにかけるかによって、まったく性質が異なってきます。いいですか。たとえば美容師の方はお客さんと適切な距離を保ちつつ、髪の一本一本、そして全体のスタイルを把握できねばなりません。この方に対して、たとえば寝るまえにベッドで文庫本を読むという方と、おなじ老眼鏡というコンセプトで眼鏡を用意できるとお思いですか?
(……最近の眼科医ってこんなかんじなのだろうか)。内心の疑問をつとめて表情に出さないようにして、質問を続けてみた。私の場合は、会社のデスクワークとして小さめの文字を読むときに使いたいと思うんですけど、いまの眼鏡の近視矯正を緩くするという方法もありなんでしょうかね?
かちょうさん、確かにいま使っていらっしゃる眼鏡は若干過矯正ぎみになっています。それをすこし緩めるというのは、考えられるコンセプトのひとつではあります。ただ、それは誰にでもできることではありません。考えてみてください。靴を買うとき、もちろんデザインや革の品質も条件に入ってきますが、いちばん大事なのは履き心地ですよね。それも、試し履きの数十秒で得られる主観的な印象ではなく、きちんとしたシューフィッティングの技術を備えた店員がいる店で買うことが重要だと私は思うのです。
(……なぜ眼科医で靴選びの話がはじまるのだろう)。まあいい。要するに、私の希望する作業用の眼鏡をつくるにも、信頼のおける店でつくる必要があるということですね?
その通りです。もちろん、処方にあたって特定の眼鏡店を強制することはできませんが、ご希望であれば責任を持って紹介させていただきます。処方外来は木曜日の午後になっています。よくよくお考えください。私たちは、いつまでもかちょうさんをお待ちしています……。
結論から言うと、めんどくせえから週末にJINSで安いめがね買ったったけどな。
画像の黄色いめがねで、自分としてはいちばん自然に似合うものを選んだつもりなのですが、勤務先では、どうもウケねらいのおもしろめがねと捉える向きもあるようで困ったものです。虚心坦懐、明鏡止水の心持ちで選んだめがねを笑瓶あつかいされてしまっては立つ瀬がないよ!