「花つみ日記」

新聞の土曜版の山崎ナオコーラのエッセイを読んだらそばが食べたくなってきたので、昼ごはんは北新地の「とき」で蟹身あんかけそば。そして鶴見区民センターで開催されている、おおさかシネマフェスティバルへ向かう。目当ては高峰秀子主演、石田民三監督、吉屋信子原作の「花つみ日記」。宗右衛門町のお茶屋の娘(栄子=デコ)と東京から転校してきた女の子(みつる)の交流を中心とした女学生ものなんだけど、これがとんでもなく楽しい映画だったのです。
オープニングは校庭の掃き掃除。列を重ねて足並みをそろえて、校庭をゆっくり箒で掃き清める女学生たち。白い地面にくっきりとした黒い影。そして校舎の窓から流れる女教師のピアノ伴奏に合わせて四方八方から集まってきた女学生が、点が集合して図形を象るように固まり歌いはじめる。もうこのシーケンスで昇天。物語が進むにつれ、栄子とみつるのラブラブっぷりに悶絶。とちゅうから映像的にも物語的にもすこし失速していく感はあるんだけどね。でも、仲違いをした栄子とみつるがそれぞれハイキングに出かけて、栄子はケーブルカーのなかで、みつるは山道を歩きながら、同じ歌を歌いながら交互にカメラが切り替わるシーン、あれいいなあ。最高にいい。かわいいよデコかわいいよ。
さて、上映が終わったあとに川本三郎と上倉庸敬(大阪大学)によるトークが予定されていたんだけど、これが予想外の展開になってしまったのだった。最初の3分くらい2人で話していたものの、川本氏が「ところで、これどこでロケしたかお分かりになる方いますか?」と会場に水を向けると、次から次へ発言が。以下概略。

  • 実際にロケを見たという女性。女学校は現・大阪女学院であるウヰルミナ女学校、教会はその近くの玉造カトリック教会ですとのこと。
  • 生まれ育ちが宗右衛門町の男性。栄子の家は富田屋というお茶屋である。
  • もうひとり、おなじく宗右衛門町育ちの男性。たしかに富田屋でまちがいない。富田屋は○○○○という当時一番の売れっ子芸妓を出した有名店だった。しかし撮影に使用したのは外観だけで、建物内部はセットだと思う。芸妓たちのお稽古のシーンであるが、これは富田屋とはべつの○○屋の稽古所作にそっくりなので、こちらに指導を頼んだのではないか(※そろそろ誰もついていけないレベルの話)。それから女学校ロケはたしかにウヰルミナ女学校だろうけど、設定としては学校は帝塚山あたりにあるという感じではないだろうか(※自説を展開しはじめた)。最初に栄子とみつるが一緒に帰るシーンの石段のある道は、生國魂神社の北側の参道につながる道である。そして2人が天国についての話をする、大阪城が見える橋は天神橋(※ここで場内各所から「いや、あれは銀橋!」とツッコミあり、男性も訂正)。栄子が先生に持っていったお人形さんはテンプルちゃんだと思う、まちがいない。ほかにも言いたいことはあるけれどこのくらいで。
  • 比較的若い50代くらいの男性。当時のことはもちろん分かりませんが、さきほど話に出た生國魂神社の道のシーン、じつは川島雄三の「わが町」の御輿をかつぐシーンでまったくおなじアングルで映されてるんですわ。これ私感動いたしました。

ほかにもいっぱい発言があって、もはや本来のゲストたちが口を挟む隙もないのだった。ていうか川本氏はメモ取るのに忙しそうだった。だってさ、これたぶんどんな解説本よりもディープな話してますよ。とくべつにそれでメシ食ってるわけじゃない、市井の映画好きの老人たちが。なんかねー、勝てないものを感じた。しかも話に抑揚があっておもしろい。ヤツらすごすぎ。
帰って淀屋橋のタリーズでお茶しながら、妻と二人で今日の映画とトークについてアツく語った。語り足りないので、新町のトラットリア・パッパに夜ご飯食べに行って、そこでもアツく語り合った。今日はまだこうふんぎみです。