ビル掃除と貧乳

勤務先のビルの掃除のおばちゃんに、わりに気に入られているように思う。昨日スクーターがパンクしたくさいので今日は地下鉄で出勤したんだけど、裏口に僕のスクーターが停まっていないのを目ざとく見つけて、「今日はバイクじゃないのね〜?」とか話しかけてくる。
学生のころ、僕もビル掃除のバイトをしたことがある。ちょうど今くらいの季節で、1日8千円で正味15日くらい働いたんだったかな? 基本は高層の窓拭きの補助でわりとしんどい思いをしました。で、雨の日や早く終わったときなんかは、ビルのフロアのごみ回収とかにまわされるのね。とうぜん掃除バイトなんてのは、フロアで働くひとたちにとってはほとんど眼中にないわけで、黙々とごみを集める。こういう作業をしているうちに、じぶんのなかでそれまでまったく感じたことのない気持ちが、ちろちろ湧いてくるのに驚いてしまった。(OLさんてええなあ……)と思ってしまったのである。なんだこれは。
OL、看護師、教師、キャビンアテンダントだとかの職業集団に性的なファンタスムを感じるというのが、そのころ僕にとってはよく理解できなかった。女の子のきれいさや聡明さやおっぱいや脚や優しさや傲慢さに欲情するのはよくわかる。しかしなぜ、職業というセグメントに性欲の関連する余地があるというのか。そんなふうに考えていた僕ではあるが、掃除バイトという視線を体験することで、権力関係によっても人は欲情するのだなあと、理屈ではなく実感として認識を新たにした。しかし、じぶんのなかのそんな新しい感情に動揺していると、フロアのOLさんがおつかれさまといって冷たい缶コーヒーをくれたので、あっ、いま俺ばっちいこと考えてた、いかんいかんと反省したのでした。
もちろん性や恋愛をめぐっては、もっと見えにくい権力関係というのはいっぱいあって、できるだけそういうのとは無縁でいたいけれども、でも果たして完全に平均化された権力関係のあいだに欲情は生まれうるのかという疑問にはそれなりに正当性があるようにも思うし、こういう問題はむずかしいですね。その論理をつきつめていけば、おっぱいや脚に欲情するのも権力の問題だったりして、そしてうかうかと「僕は巨乳より貧乳が好きだから……」なんてぬかす間抜けな男が袋叩きに遭うのも、世の常なのである。