花火を見た土曜

スクーターを修理してもらいに、松屋町筋のバイク屋へ。1時間くらいですむというので、ほかのバイク屋をぶらぶら見がてら、あたりを歩くことにする。
松屋町筋を南に下がっていくと25号線にぶつかり、通天閣を目にすることになる。初めてこのあたりに来たとき僕はそれを知らなかったので、眼下に広がる森とその向こうにそびえる塔がなんなのか、一瞬理解できなかった(森は天王寺公園である)。いわゆる新世界から見上げる視点が通天閣のいちばんポピュラーな姿なんだろうけど、この場所から見える通天閣は、そんなパブリックイメージに疲れた物憂さを発しているようにも思えて好ましい。とか思いながら歩いていると熱中症を起こしてしまいそうなくそ暑さなので、古ぼけた喫茶店に入って時間を過ごす。
家に帰って昼食をすませて、タワレコ心斎橋店に出かける。今月いっぱいでの閉店が決まっているこの店にそれほど思い入れがあるわけじゃないけれど、大阪でいちばんよく足を向けていた店であることは確かでした。残念ではあるけれど、でもここんとこのタワレコの方向性、アメ村という町の空気を考えると、すでに役割は果たし終わってたんだろうなあという気もします。
そして夕食は江戸堀のゴダーユへ。妻とちょっとしたお祝い。トマトと胡瓜の冷製スープ、季節の野菜のサラダ、サンマと茄子のテリーヌ、豚バラ肉のフレッシュトマト煮込み。こんな具合に、どこにでも売ってるような旬の食材を使ったリーズナブルであっさりしたフレンチがここの特徴。ビストロからグランメゾンまで、濃ゆい濃ゆーいフレンチが主流の大阪では珍しくて、ここのところすっかり僕たちのお気に入りの店。
帰宅して部屋で過ごしていると、地響きのような音が聞こえてきて、今日は淀川の花火大会だったんだと気づく。マンションの最上階に上がってみると、すでに他の住人たちが花火見物に興じていて、僕たちも風がない蒸し暑い空気のなか色とりどりに打ち上げられる花火を楽しむ。9時ごろに終わったので部屋に戻ると、冷蔵庫のビールが切れていることに気づいた。ちぇっ、コンビニに買いに行こうと靱公園を横切っていくと、ベンチで二十歳くらいの男の子と女の子がおもちゃ花火を楽しんでいる。夏はいいなあ。
それでも、くそ暑いのはやっぱり苦手だから、風呂を浴びてから冷房をかけた部屋で過ごす。そして高橋悠治ゴルトベルク変奏曲を聴くというのも、これはこれで夏の夜らしいんじゃないだろうか。1976年録音のこの盤を聴くのは初めてで、思っていたより耳当たりがよいから、音の持つ性格よりも若き日のユウジの技巧についつい意識が向いてしまう。軽みに溢れたちょっと不思議なアタック、現れてはゆらいで消える装飾音。涼しい部屋によく似合う、それでいて花火のように煌めく音楽。