カニのはなし
堂島川沿いの遊歩道を歩いていると、脇に設けられた植込みからガサゴソと音がする。スズメだろうと思って近づいてみても飛び立つ気配はなく、そこにいたのは甲羅の幅4〜5cmくらいの褐色のカニだった。このあたりの散歩をはじめてから、けっこういろいろな生き物がいるもんだと気づいたけど、さすがにカニは初めてだったので驚く。このあたりで生きていくのも敵が多くてたいへんだろうけど、がんばってほしい。
そういえば、きっちゃんがランプの油に突っ込んだカニに火をつけて遊ぶ、「泥の河」の舞台はこのあたりからさほど遠くないのだった。中之島をはさんで流れる堂島川と土佐堀川は合流して安治川となり、大阪港に注ぎ込む。合流点にかけられている端建蔵橋のたもとに、主人公ののぶちゃんの家のやなぎ食堂があると設定されている。物語の時代は昭和30年なので、半世紀を経た現在、その雰囲気を残すものはもちろんなにもない。それでもきっちゃんたちが暮らす水上船がつながれていた湊橋、きっちゃんとのぶちゃんが浄正橋の天神さんのお祭りにいくために通る堂島大橋など、見慣れた名前が出てくるのを読むと、それらの風景がすこしだけモノクロの映画に重なるような気がする。
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